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夕食を食べ終わり、片付け物をして、順番に風呂に入る。京弥さんの部屋に敷布団を2枚敷く。1人はベッドであと2人は敷布団で、3人で同じ部屋に寝ることにした。
涼太さんが風呂に入りに行った時、当然部屋で2人きりになるわけで、好きな人の部屋にいるという喜びを噛み締める。
ふとベッドサイドの小さなテーブルに目を移すと、去年の大豪雨で急に泊めてもらった時のお礼で贈った、姉が選んだクマのぬいぐるみが座っていた。
「クマ、いるんですね。」
「ちゃんといるよ。」
アンタはクマのぬいぐるみを俺に手渡して来た。
抱えてみると、ぬいぐるみってやっぱり柔らかい。
「受験勉強の時にお世話になったよ。問題が解けなくてイライラしてる時、この子の顔を見ると結構穏やかな気分になれるし。追い込みの時なんて、この子が頑張ってねって言ってくれてる気がしてならなかったよ。」
ぬいぐるみが話しかけてくるって錯覚するなんてアブナイ人だね、と彼は付け加える。
そうか、コイツはこの部屋にいるからずっとアンタと一緒にいたのか。アンタの勉強を頑張る姿、無防備な姿…若干羨ましい。
すると急に京弥さんはスマホと睨めっこし始めたので、どうしたのか?と聞くと、お母さんはまた深夜帰りになるという連絡が入ったと言う。
「お母さん忙しいんですね…」
「良いんだよ、仕事が趣味みたいなものだし。趣味を仕事にしたっていうか。」
「何の仕事してるんですか?」
「化学系の研究開発にいる。」
カガクケイノケンキュウカイハツ?聞きなれない単語だ。
あの紅林保葉と結婚するくらいだから、どこにでもいる女の人ではないとは思っていたけれど。
「でも、仕事が好きな事だったら幸せですよね。」
「そうだね。」
「俺も好きな事を仕事にしたいな。頑張らないと…」
その為にリペアマンになりたい。
決して楽な仕事ではないけれど、楽器と向き合う仕事がしたい。
「僕は葵を応援してるよ。やりたいことをやってる時って一番人間輝いてる気がする。僕の母親は一般的なお母さんとは程遠いけど、毎日キラキラしてるから。父さんも、そんな母さんが好きだから結婚して今まで続いているんだよ。」
「お母さん、どんな人なんですか?」
「難しい質問だ…」
「誰かに似てるとか。」
「強いて言うなら、明澤ひかり。」
俺は一瞬ひるんだ。すごく見た目は可愛いけど中身は可愛いだけじゃない代表選手の名前があがるとは…
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