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「今までは制服だっけど、これから私服ですよ?雨降ったらどうするんです?服乾きませんよ?」
「どうしてもダメだったら、父さんの借りようかなって思ってた。」
確かにおじさんとアンタは体格も似てるけど、合理的過ぎて超絶文系人間の俺には理解が出来ない。
「まぁ、京弥のお父さんなら、若々しいし…カッコいいけどさ…うちの父さんみたいにお腹は出てないけどさ…」
明日は京弥さんが大学に通うために必要なものを買いに行かなくては…
オシャレになって更に色んな人からの注目を集められるのは嫌だ。だけど、俺も京弥さんの着るものを選んでみたいな…と思った。
しばらくすると涼太さんの寝息が聞こえてきた。
昨日もそうだったけれど、涼太さんはどこでも寝れるタイプの人間で、かつ、すぐに寝てしまう。
俺は隣で寝ている人に意識を向けないではいられない。
するとアンタは俺の方に身体を向けて、近寄ってきた。
「葵がくれた栞は、大学に行っても使わせてもらうね。」
「そうすっか。」
なんて素っ気ない返事をしているんだ。本当は嬉しいのに。
「大切にするよ。」
暗がりで、そして、至近距離でアンタは満面の笑みを浮かべる。
俺もつられて笑顔になる。
「なんか変な感じだな、毎日葵と顔突き合わせてたのに、受験が終わって自由になっても僕はあの場所に帰ることができないんだなって。」
「なにそれ…」
「僕はまだ、吹奏楽部にいたかったってこと?なのかな。」
俺だってアンタまだ一緒に…
「だから、また、聴かせてね?葵のサックス。」
「コンクール来てもらっても、俺がソロ吹くことなんてないですよ?」
「そういう意味じゃないよ…」
知ってる、アンタの言っている意味くらい知ってる。でも知らないふりをするんだ。
俺の気持ちを知らないで、アンタは俺の方にもぞもぞと近寄ってくる。
「本当は葵とまだたくさん話したいなって。」
「何か言いたいことがあるんですか?」
「そうじゃないよ、ただ葵と話したいだけ。会話の内容なんてなんでもいい。」
それって俺の声が聴きたいの?と自惚れてしまう。
俺だって、アンタと話したい。
でも、アンタに近づき過ぎると抑えきれないものが爆発しそうだ。
「葵…僕が卒業式の時に渡したもの…」
「ネクタイですか?」
アンタはゆっくりと首を縦に降る。
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