さよならアルトサックス

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高校3年生、同級生達が受験勉強と部活を頑張っている時、俺はバイトと部活を頑張っていた。 親元を離れて、イギリスの専門学校へ行く。日本の専門学校でもいいではないか、と言われたらその通りだ。 だけど、俺はどうしてもイギリスの専門学校へ行き、リペアマンのじいちゃんと働く事を夢見ていた。 だから、授業料と少しの生活費くらいは日本で稼いで行こうと思いバイトをするという選択をした。 友達からはもしかしたら、受験勉強しないで部活とバイトばかりして!という目で見られるかもしれないという若干の恐怖心はあったが、今後生きる為に働いているということが伝わったのか、むしろ応援されてしまった。 せめてもの罪滅ぼしではないが、高校2年の時より増して勉学に励むようになった。皆、受験で苦しい時こそ俺も勉学でも頑張らないとと思ったからだ。 涼太さん、京弥さんが受験勉強をしている姿を見ていたからかもしれないが。 バイトは学校帰りに行ける所で探した。特に職種は何でもよかったけれど、本はあまり読まないが本屋にした。面接に行ったら、まさかの明澤先輩がいた。 それからと言うもの、彼女とは俺がイギリスに発つまで週に2から3回顔を合わせることになる。 お客さんがあまりいない時、レジで明澤先輩と2人で待ちぼうけしていた時だった。そう言えばいつもふざけたことしか話していないな、と思い、通っている大学の話を聞いてみた。 「先輩は、今どこの学校に通ってるでしたっけ?」 「薬学部よ?東京の私立だけどねー、めっちゃお金かかるのよ。勉強も大変だけど、生きる為にはお金必要でしょ?だから、バイトをソッコー始めたの。」 バイトどうするか悩んでる子達もいるよ?と付け足した。 「薬学部って薬剤師の?」 「そうね、一般的にはそうかも。」 「え?一般的じゃないんすか?」 「本当は研究者になりたかったんだけど、難しいかもってこと。ま、いいわ?今、女子校で楽しいし。女子ばっかだと、みんな野生に帰るの。」 ふふふ、と笑う明澤先輩は不気味だけど可愛かった。 「なかなか自分の夢には辿り着かないことが多いよ。」 と彼女は小さな声で呟く。 俺は、薬学部に入れただけでも凄いことじゃないか?と思ったが黙っていた。 「第1希望の学校は滑っちゃったし、滑り止めだし。浪人しても来年に第1希望のところに入れる保証はないし…だけど浪人した方が良かったんじゃないか?って思うこともあるよ…」
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