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会えないと、会いたいと思っても、会いたくなくなってしまうのは何故だろう。
きっと毎日顔を合わせていた時は、勝手に彼の考えている事を理解しているつもりだったのだろう。そう、きっとその中に自分は含まれていると決めつけていた。
離れてみて、彼の考えている事が本当は知らなかったという事を思い知らされたのだ。
アンタに会いたい。でも、会いたくない。
バイト先の本屋に来てくれる度、嬉しくてたまらないのに、他人行儀に接してしまった。
アンタも、もし、俺に話したいなら連絡をしてくれても良いのに…と心の底で思ってしまう。そう思い込む事で、アンタも俺に会いたいと思ってくれているという錯覚に溺れていた。
全部相手のせいにして、自分は被害者面をしていた。
そのくせ、アンタが卒業式にくれたネクタイは毎日持ち歩いていた。アンタが側にいてくれるような気がした。
バイトと部活の生活から、部活を引退して、バイトのみの生活になり、イギリスへ発つまでの時間はあっという間だった。
俺の最後のコンクールは関東大会で銀賞で終わった。
全国へ行けなかったという悔しい気持ちは少なからずあったけど、やりきったという気持ちの方が上回っていた。
京弥さんが全国で銀賞でも、泣かなかったのはそういう気持ちだったからかもしれないと、ようやくわかった気がした。
京弥さんはコンクールを見にきてくれた。
その度にメールをくれた。ただ純粋に嬉しかった。
でも、本当は電話が良かった。アンタの声が聞きたかった。
それからというもの、アンタから会わないか?という連絡が入ったことはあったけれど、俺はバイトがあるからと言って逃げてしまった。
会いたかった。でも、会いたくなかった。会って話す勇気がなかった。
そう、美しい思い出にしたかったんだろう。きっと会ってしまったら、好きだと言ってしまう。
そして拒絶されたら俺は生きていけない。
日本からイギリスへ持ち帰る思い出はアンタという愛してやまない人がいたって事にしたかったんだ。
そのアンタという美しい思い出にフラれたとか、嫌われたという傷をつけたくなかった。 美しいものは美しいままがよかったのだ。
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