さよならアルトサックス

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家を出るとき、母親にどこ行くの?いつ帰るの?と呼び止められたが、ちゃんと答えれたかは自信が無かった。 もしかしたら、母親に帰ったら怒られるかもしれない。だけど、俺は早くアンタに会いたくて最寄り駅まで走った。人間の俺がどんなに頑張って走っても到着時刻はそこまで変わらないだろう。それでも走った。そうする以外なかった。 ー俺は早くアンタに会いたい。 高校生の時、通学に使っていた電車に飛び乗る。 そうだ、この電車でアンタを初めて見つけたんだ。 あの時、美しくて目を背けられなかった。ただ見つめていた。 早く、早く会いたい。 窓から見える移り変わる景色達…アンタと一緒に毎日見ていたっけ。 何気ない日常が俺は幸せだった。 赤レンガ倉庫の最寄駅に到着すると、俺はまた走った。すると、すぐ見つかるところにアンタは立っていた。 「なんでアンタ赤レンガに?」 こんにちは、とか、元気だった?とか、そういった言葉より先に飛び出してしまった。失礼なヤツだと思われただろうか… 「今日は課外授業があったんだ。だから、さっきまで同じ学部の友達といたんだけど、みんなバイトとか予定とかあって帰ってったよ。」 「へー。」 「神奈川以外の子も多いから、横浜案内してた。」 「友達できたんすね…」 「うん。幼馴染も同じ学部にいるし、毎日楽しいよ?」 そっか、アンタは俺がいなくても毎日楽しいのか…と頭によぎる。 きっとアンタは自分がコミュ障って理解していて、心配させないように言っているだけだろうけど。 「葵?」 「はい?」 「会いに来てくれてありがとう。駅から走ってくるのなんだかカッコ良かったよ。」 俺に満面の笑みを浮かべてくれる。 やめてくれ、照れるから。 「葵、時間は大丈夫?」 「はい。」 フライトは明日の朝だけど、どんなに眠くても飛行機に乗ってしまえはいい。 「じゃあ、お茶でもする?」 「え、あ、それでもいいんですけど…その…」 「ん?」 「港の方、行きたい…」 「いいけど…」 アンタと恋人ごっこしたところに行きたい。アンタはお茶でも飲みながらゆっくりと俺と話をしたかったのかもしれないけれど。 久しぶりに見たアンタは相変わらず美しい。 後ろ姿のアンタを見て、元気そうでよかったと思いつつ、会わなかった日々はどう過ごしていたのかが気になった。 あたりは徐々に日が暮れている。 それでもアンタという存在は俺の中では光だった。
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