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「うん…」
日本から1人で発つ。
大切な思い出を引きずってフライトはしたくない。
いや、アンタだけには見送って欲しくなかった。
俺が一番、日本に置いて行きたくないアンタだから。
これは俺のエゴだけど。
「涼太さんが…江ノ島で言ってたこと覚えてます?海は繋がっているって。」
「うん。」
「それ聞いた時、安心したんです。地球が海で世界中繋がってるっていうのは当たり前なんですけど、ああ、良かった、ここもイギリスも繋がってるって思うと安心したんです。」
1人じゃないって安心できた。実際はイギリスと日本は飛行機で10時間くらいかかるけど、すぐアンタに会える気がした。
「海って、すごいよね。」
「はい。」
俺達は少し無言になる。
同じ時間を、空間を共有できていると思うだけで幸せだった。
あと少し、一緒にいて欲しい。
俺に夢を見させて欲しい。
イギリスへ行ったら、また新しいたくさんの人に出会うのだろう。
もしかしたら、恋人だって出来るのかもしれない。そうしたら、京弥さんの事だって、あんなに美人だから、男だけど好きっていう感情が湧いたんだ、ただの気の迷いだったんだと俺の中で処理されてしまうのだろう。だけど、この人以上に人を愛せるとは思えない。
だから、怖い。
この人以外愛せないのではないか、と俺の頭の中ではそんな感情がよぎる。
俺もまだ10代だし、若気の至りで永遠の愛を脳内で語らっているだけかもしれない、と思っていたけれどそうは思えなかった。
好きは止まらない。だけどある日突然2人の中の何かがストップする。ストップしたからイギリスにいた時にいた彼女とのおままごとのような恋愛は終わったのだ。
だけど、この人への好きは止まらない。寧ろ日々好きが加速している。
だからアンタに好きとは言えない。毎日膨れ上がる思いをぶつけるなんてできない。
昔、姉とメロドラマを見ていた時、姉はお腹をかかえて爆笑していたし、俺はたかが1人の人間に自分の大切な人生を捧げるなんて馬鹿げてるって思ってた。
もし、今、俺と京弥さんがあのドラマの中の2人のように愛し合っていれたら俺は日本に残ってリペアマンの学校に通う決意ができたのだろうか…もしくは、一緒にイギリスへ来てくれと言っていたのだろうか。
「葵、僕もいつかイギリスへ行ってみたい。」
「メシはマズいっすよ…」
「なんでそんな事言うの…」
「事実だから。」
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