さよならアルトサックス

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「グリニッジに行きたい。」 「この理系脳…」 はぁ、とため息をついてみせる。 「でもいいとこっす。電車は時間守るし、タクシーは安全だし。オシャレに服を着こなす人も多いです。」 「それは…うん…」 京弥さんはチラリと自分の服を見る。 「ちゃんと、曜日で服決めないで頑張ってるよ。」 「当たり前です。」 俺は地味なカッコのアンタが嫌いなわけじゃない。 寧ろ、格好に囚われずに美しさを誇るアンタが好きだ。 目と目が合う。ドキドキする。 アンタは涼しい顔をしているけれど、アンタには俺の顔はどんな風に映っている? 「葵…」 「はい…」 「イギリスでも元気で。」 「うん…」 「日も暮れてきたし、帰ろっか。」 アンタは立ちあがる。俺もつられて立ち上がり、駅へと向かう。 「今日はもう予定ないんすね。」 「うん。でも明日はバイト入ってる。」 「なんのバイトしてるんすか…医学部生だと、やっぱり家庭教師?」 「同じ学部の子達も結構家庭教師やってるし、それも考えたんだけど、教えるの苦手だし、どうしよっかなって思ってブラブラしてたらさ、漢方薬局のバイト募集の張り紙見て、お店に入ってみたら即採用してくれた。だから今はそこでお世話になってるよ?」 うわー、やっぱり斜め上な回答出してきたな…ホールとか本屋とか販売員とかあるじゃん。 「服屋さんとかも考えて、服買うついでに見てみたんだけど、なんか、働いてるバイトの人達キラキラしてて怖くなって逃げてきたよ。」 そんな仕事はコミュ障には辛いわな、アンタくらいだったら読モも出来そうだなと思ったが、被写体になるのは嫌いそうだしな、と。高校生時代は隠し撮りはされてたけど。 「今はどんな仕事してんすか…」 「何でもしてるよ?受付、掃除…薬剤師の旦那さんと、お料理好きの奥さんと3人でやってるんだけど、奥さんと今はレシピも考えてる。」 アンタにピッタリな職場じゃないか。きっとおっとりとした性格のアンタをそのご夫婦も気に入ったんだろう。 アンタと2人で駅までの道のりを歩く。 周りに人はたくさんいるのに、2人きりなんじゃないか、という錯覚に陥る。 電車に乗り込むと、帰宅ラッシュとぶつかってしまい、座ることは出来なかった。 だからアンタとの距離はすごく近くて、体温が伝わってくる。
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