何もない顔

2/2
前へ
/2ページ
次へ
あの時、私はちょうど駅のホームにいた。 なんだか嫌な予感はしていたのだけど まさか飛び込む人が出るなんて思ってもいなかった。 しかも最悪なことに、誰かが飛び込む直前、私はその人の顔を見てしまった。 生きることに絶望した顔。 「無」というか「空」というか。 何もない、という言い方が一番しっくりくるかもしれない。 とにかく、そんな感じだったのを覚えている。 ドンっと大きな音がして、少ししてから近くにいた人が悲鳴をあげた。 あんなことがあってから数日間、私は悪夢にうなされた。 あの何もない顔が毎晩出てくるのだ。 フラッシュバックってやつか。 とにかくしんどくて、私は鬱になりかけた。 今はもうあの悪夢にうなされることはなくなった。 しかし、今も忘れられない。あの空虚な顔を。 忘れられない理由は駅のホームにある。 私は時々、見かけてしまうのだ。 何もない顔をした人を。 その時私は不安でいっぱいになる。 もしかしてあの人も飛び込んで行くのではないかと
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加