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Chapter2 大きな箱
部屋に入り押入れを開けると、一つの大きな箱が存在感を放っていた。
箱の一面はカッターで切り目が入っていて、フタを開けると自動的に手前の一面が開くようになっている。
和美がフタを開けると、色とりどりの小さな小さな世界が目に飛び込んでくる。
ガラスの馬車
小さな動物たち
赤い屋根のお家
ぐるっと一回りしている線路と汽車
たくさんの果物やケーキ
木や花や草
テーブルに椅子にベッド
車にパラソルに観覧車
小さな世界にあるものは、どれも和美が集めたものばかり。
お菓子のおまけや、おままごとの道具、クリスマスのオーナメントに手芸の小物。
和美が小さな世界を作りはじめたきっかけは、小学2年のクリスマス。
プレゼントでもらった大きなクマのぬいぐるみには早々に飽きて、なぜかクマが入っていたこの大きな箱に惹きつけられた。
それ以来、小さいものを見つけるとすぐに、この世界のどこに置こうかを考えて空想が止まらなくなる。もう中学生なのに、こんなことをしてるってバレたら恥ずかしいから、誰にも言っていない。
私だけのヒミツ。
箱の中に手を伸ばし、ビーズを道の両側に並べてみる。
キラキラしてイルミネーションみたい。
うさぎやねこ、犬にねずみ。
箱の中にいる小さな動物たちは、いつも通りの穏やかな顔をしている。
こっちの世界に行けたら、母親にうるさく言われることも、いじわるなクラスメートに会うこともないんだ。
現実なんて同じことの繰り返しでつまらない。
私も小さくなって中に入りたいよ。
そんなことを考えながら、赤い屋根の家の中にもビーズを飾ろうと小さな扉に手を伸ばした瞬間、目眩がして意識がなくなった。
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