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俺たちは無言で、麺を啜っていた。
店内にはそれなりに客がいて、楽しそうな笑い声が聞こえてくるし、DJがハイテンションで曲紹介をするコンビニオリジナルの放送が流れている。
けれど俺たちの周りだけ、まるで薄いバリアーで覆われているかのように、麺をすする音と湯気がトグロを巻いて、重くまとわりついていた。
俺は麺を持ち上げる箸を止めて
「俺、これから用事あっから、これ食ったら、お前帰れな」そう言った。
目線は麺から引き剥がさないまま口にしたけど、酒井の顔がこちらを向いたのがわかった。
「用事って? 仕事か?」
「いや、セフレと会う約束してっから」
言ってすぐにまた麺を啜った。酒井がどんな顔で俺を見ているかなんて知りたくもないし。
「嘘つけよ」酒井は短くはっきり言った。
「お前にセフレなんていないくせに」
「な、なんで、お前がそんなこと言うんだよ? お前が俺の何を知ってるって言うんだよ?」
あんまりあっさり、わかってますよ、てな感じで言い切るから、俺はムキになって言い返した。
「2年ぶりに偶然会ったお前に、何がわかるっていうんだよ!」
今度は酒井の方にきっちり体を向けて、真っ正面から睨みつけてやった。
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