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「どけよ」
俺はドスをきかせた声を、前を塞ぐ酒井に発した。
酒井はゆっくりと首を振って、そして俺の左手首を痛いくらい強く握りしめた。
「くっつ、」
この馬鹿力!
痛みに顔が歪むけど、歯を食いしばった。
酒井は体重をかけて、そのまま腕を下に引いて俺を無理やり座らせた。
馬鹿力に加え、その大柄な体にもの言わせやがって、クソがっ。
座った俺は自然と酒井と向き合う姿勢になってしまったから、せめてもの抵抗とばかりに、そっぽを向いて口をきっちり閉じた。
「酒田、お前さ、あの雪の夜、泣いてただろ?
俺を置いて1人で帰りながら……、お前、泣いてただろ?」
「な、泣いてないし!」
聞き捨てならないことを急に言われて、俺は急いで反論の声をあげた。ついでに睨みつけようと顔をあげた瞬間、酒井とバチッと目が合った。
「こっち向いた」
目の前の男は、いたずらが成功した子供みたいな、場にそぐわない顔でほわんと笑っていた。
ったく、なんなんだ……
「ムキになる俺が馬鹿みたいじゃん。お前、俺のこと馬鹿にして楽しい?」
俺はもうすっかりふて腐れて、力なく口にした。
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