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コンビニの店内に足を踏み入れると、ホッとする。
外観から遮断されたこの小さな空間に、生活用品や食べ物がわんさかあるのを見ると、まるでシェルターにいるような気がして、安心する。いつもなら……
……ダメだ。
今日は全然安心できない。
隣に、酒井がいるからだ。
酒井は未だ俺の腕を掴んでいて、店内をキョロキョロしている。
あっちが気になるなら勝手に行けばいいのに、俺をグイグイ引っ張り奥へと足を進めた。
「あの時食べたラーメンって、どれだった?」
カップ麺棚まで来ると、腰を屈ませてカップ麺を凝視している。
「あー、あれは……」
俺は一番下に置かれているカップ麺を手に取った。
確か、あの時買ったのは……、そうコレだ。うん。
あの日雪を眺めながら、コンビニのイートインカウンターで食べたカップ麺。
今でも忘れない、この派手な彩りのカップ麺の蓋を眺め、思わず微笑みそうになってハッとした。
あぁ、ダメだ。こんな些細なことで、またデジャブに襲われそうだ。
「でも、今美味いのはコレだから!」
あの時のカップ麺を戻し、目線の高さにあるカップ麺を手に取った。
「ふうん。そうなんだ。じゃあ、これにしとこうか。新たな歴史ってことで」
酒井は俺からそれを取り上げて
「あー、酒田、カゴ持って」
俺にカゴを持たせると、その中に2つ入れた。
「ほら、俺酒田の腕を捕まえてなきゃいけないから、手が足りなくてさ。それに俺…」
「どんな言い訳だ!? その手を離せばいいだけだろ!?」
余計なことを言う酒井を遮り、呆れて言い返せば
「ダメ~。また逃げられちゃうかもしれないから。離さないよ」って……。
なんの罰ゲームだ!?
俺にどうしろ、って言うんだ!?
素直に喜ぶところなのか?
……いや、違うだろう。
「アホか」
俺は小さく呟いてレジへと向かった。
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