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「待っててやっから」
「は?」
手にした缶ビールを一気に飲み干して彼女に向き合うと、彼女は酒のせいではなく上気させた顔で俺の次の言葉に期待を込めて見詰め返してくる。
きっと、後少し。
「風が吹くと落ちて来るらしいから」
「へ?」
この桜の木の下で新しい恋との出会いを、そのシチュエーションを今与えるから。
「落ちて来んの、気長に待っててやる」
「……」
にんまりと笑顔を作ってはぐらかす。
いつでも傍に駆け付けるけど、簡単に望む言葉は与えない。
彼女がその恋に気付くまで、きっと後ほんの少しだから。
それまでは隣に並ぶだけ。
~fin~
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