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豊が暖かい春の日をイメージした曲を吹き終えると、ぱちぱちと控えめな拍手が聞こえた。
二の鳥居のそばに控えている大きな獅子像に跨った沖田がにこにこしながら手を叩いていた。
「とっても春らしい曲ですねぇ。僕も気持ちが明るくなりましたよ。あまりに素敵な演奏だったので、狛犬も開いた口が塞がらないみたいです。その腕前ならお座敷で披露しても充分なお金になるでしょう?」
獅子像の口の中に手を突っ込んでポンポンと叩く沖田。
「残念なことに、この程度じゃ大したお金にはならないんですよね……っていうか罰当たりですよ、総司さん!それにそっちは口を開けているので狛犬じゃなくて獅子です!」
「あれ?これって両方とも狛犬じゃないんですか?」
「狛犬は向こう側の口を閉じてる方ですよ。どちらも、うちに祀られている神様をお守りする大切な霊獣です」
「へぇ。豊さんは神様の存在を信じてるんですか?」
「もちろんです!神様はいつも私たちのことをご覧になってるんですよ。私が良い行いをすれば幸運を届けてくれるし、どんなにこっそりやっても悪いことをすればバチが当たりますから」
そんなに律儀な神様も少ないと思うけどなぁ。
沖田はそのことは口にせず、獅子像から飛び降りた。
「今日は子どもたちは一緒じゃないんですね」
豊は辺りを見回してから言う。
いつも沖田を取り囲んでいる子どもたちの姿がないのは不思議だ。
「今日は子どもたちと遊ぶ約束はしてませんからね。本来なら今僕は見廻り中のはずなんで」
「えっ……あの、ここにいていいんですか?」
沖田は途端にむすっとして腕を組んだ。
「いいんです、今日は土方さんを泣くほど困らせてやるつもりなんで。聞いてくださいよ豊さん、あの大きなクソガキのクソみたいな話を」
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