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遡ること2時間前。
「ほらほらぁ、皆さん気合いが足りませんよ。そんなんじゃ不逞浪士を斬るどころか、逃亡の足止めすらできませんからね」
沖田のスパルタ特訓に耐えられず潰れてしまった平隊士たちの間を縫って歩いて、沖田は隊士たちを鼓舞して回る。
「それくらいにしてやれやァ。剣の扱いに慣れてねェ奴もいるんだからよォ」
「なに呑気なこと言ってるんですか永倉さん。戦いの場はいつ訪れるかわからないじゃないですか。時間は待ってくれないんです。戦場に放り込まれたら勝つか負けるか。それはすなわち殺すか殺されるか、生きるか死ぬかです。そのためには日々鍛えるしかないんですよ。皆さん、頼りになるのは己のみだと思ってください。戦場じゃ誰も守ってはくれませんからね」
沖田は木刀の切っ先を床にドンとつき、柄頭に両手を重ねて置いてふぅ、と息をついた。
「なぁ、お前沖田隊長の手、見たことあるか?」
「手……ですか?自分、新選組に入って日も浅いんで、話したことすらまだ……」
「あの人は努力の鬼だ。元々才能にも恵まれてるんだろうが……それに甘えたりせず、努力を怠らない。沖田隊長の手はマメが潰れたところにまたマメができてるから、固くてボコボコしてるんだ。本人はそんなこと微塵も感じさせないけどな」
「へえぇ……」
おい、総司。
まァたお前の信者が増えたみてェだぞ……。
永倉は『さすが沖田隊長、スゴイ……!』雰囲気を隠しもしない平隊士を白い目で見た。
「総司は一番隊以外にも熱烈なファンを抱えてんなぁ」
所詮は他人事。
男に騒がれても別に嬉しくねえしな!とヘラヘラ笑う原田のことも白い目で見てから、永倉は立ち上がった。
「よォし。総司!隊士はどいつも疲れちまってるみてェだし、こいつらに一息つかせる間、ここは久々に俺と手合わせでもしてみねェか?」
振り返った沖田は満面の笑みだ。
「いいでしょう。戦いを見ることもまた、皆さんの勉強になるでしょうしね!」
子犬の皮を被った凶暴な狼の気迫を前に、さすがの永倉も冷や汗をかいた。
「……総司。とりあえずその、な?お前はその愛用の木刀を一旦置けや」
「え~……」
「ほら、左之!お前の竹刀寄越せ!」
「ん?おー」
永倉は沖田から木刀を取り上げ、代わりに原田の竹刀を握らせた。
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