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「…………わかった、わかったよも~……俺の負けでいいよ……」
山崎がそう言って大きなため息をついたのと、豊が顔を輝かせたのは同時だった。
なに?なにがわかったって?なにがあった?
土方と沖田の頭上には疑問符がいくつも浮かぶ。
「巫女の仕事は今まで通り続けて構わない。ただし芸妓の仕事は……もし豊の身に何かあったら、俺は豊に手を出した客も、そんな状況を看過した店の奴らも全員殺しに行く。だからちゃんと他人の命を背負ってるっていう緊張感を持って働くように」
「ありがとう!」
なんだ、山崎もただのシスコンだったのか。
土方と沖田からの生温かい視線を背中に感じた山崎は今すぐ腹を切りたいほどに恥ずかしかったが、何とか気を強く持つ。
だからこの2人の前で豊に会いたくなかったんだよ俺は!
山崎の心の内など知ってか知らずか、豊は山崎に深々と頭を下げてから笑顔で手を振った。
「またね!お兄ちゃん大好き!」
山崎は軽く手を挙げながら、また目元を覆った。
豊が去ってから、沖田に肩を叩かれる。
「お兄ちゃん♪」
「うるさいですよ殺されたいんですか」
「烝、お前……俺でさえ見てて辛くなるほどの重度のシスコンだったんだな」
「多分土方さんが今思ってる100倍は重度な自覚がありますけどね」
自身に余裕がなくなっていることに気付いた山崎は一度深呼吸をしてから2人に向き直った。
あ~、ヤダヤダ、この顔。人の弱みを握ってやったみたいなこの2人の顔。
「山崎さんと豊さんは随分歳が離れてるみたいですが、やっぱり妹って可愛いもんですか?」
「両親は家業に忙しくて、幼い豊の世話をしたのはほとんど俺なんですよ~。生活面での世話も全部俺だし、読み書きを教えたのも、遊び相手も俺でした。そういう理由も含めて、今の彼女への思い入れは一塩ですね~」
こんなこと本人には言いませんけどね。
白状して話し出す山崎。
自分が大事に大事に守ってきた妹が、あんなに愛らしく、綺麗に成長した。
それが夜な夜な男の前で芸事を披露している……自分が山崎の立場だったとしても、心中穏やかではいられないだろうと土方は思った。
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