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「いい天気だな~。なーんもしたくないな~」
星詠神社の入り口にある一の鳥居から参道の階段を上ったところにある二の鳥居。
その下に腰を下ろした豊は、傍に竹箒を置いてにこにこしながら空を見上げた。
ぽかぽか温かい日が多くなってきて、一斉に芽吹きだした花々からは春の匂いがする。
幼い頃、こんな日にはよく縁側で昼寝をしたものだ。
「『なんもしたくないな~』……じゃねーわ、この不良巫女が!!」
「おわーーーーーーーーっっっ!?」
背後から足音もなく近づいてきた男が突然繰り出した拳骨を間一髪で避けたが、反射で頭を押さえてしまう。
あまりの気迫に、豊は殴られていないのに殴られたような錯覚を起こした。
殴られた(気がする)箇所が痛い(気がしてきた)。
「避ッッッけんなクソ巫女ォ!!」
「避けなきゃ死ぬわ!!私知ってるんですよ!その必殺拳骨食らった人は一瞬で気を失うから、街の人から『星詠神社の神主の拳は一撃必殺だ、絶対に怒らせるな』って言われてるの!」
「え……そうなの……?俺ご近所さんにそんな風に言われてんの……?つら……」
怒りマックスで突然現れたと思いきや、一瞬にして不安そうに口元を押さえて近所の住人からの印象を心配しだした情緒不安定なこの若い男こそ、星詠神社の神主である。
豊に巫女をお願いしてきた心優しい先代神主の息子らしいのだが、荒々しくて暴力的なので、豊は心の隅でこの男は自慢の拳で先代の神主を脅してこの神社を乗っ取ったのではないかと疑っている。
「境内が桜の花びらでスゲーことになってんぞ!ちゃんと掃除しとけや」
「わかってます、今からやりますって!そんな神主さんは今から畑ですか?」
京の街の郊外にそれなりの広さの畑を持つ農家でもあるこの男は神事の際を除くと神社を留守にすることが多い。
一見すると何事にもダルそうな顔をしているこの神主は実はそこそこに多忙で、何に対しても真面目に取り組むのだから本当に人は見かけによらない。
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