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 食事を終えた俺達は、タクシーでナナさんの自宅に向かった。  なんとナナさんのマンションは、俺のアパートから五分もしない近所だった。築四十年の俺の家とは違い、まだ新築の匂いのする部屋には開けられていない段ボールがおざなりに置いてあり、荷物の整理もできないほど多忙な日々を送っていたのが窺える。 「ビールでいい?」 「えっと、もう酒は……」 「じゃあ、コーヒーにしようか」 「はい」  リビングのソファーに腰掛けて、対面キッチンでコーヒーを淹れてくれているナナさんをぼんやり眺める。スーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを外してYシャツのボタンを数個外したナナさんは、妙にセクシーで不覚にも鼓動が早くなってしまう。  同性に惹かれたことはないのにな。飲み慣れない酒が原因なんだろうか。 「はい、おまたせ」 「すげぇ、いい香り」  受け取ったカップから立ち上る芳ばしい香りで動悸が収まっていくのを感じながらコーヒーを啜ると、滅茶苦茶旨くて瞠目する。 「美味しい?」 「はい。滅茶苦茶旨いです」 「よかった。コーヒーを淹れるのにはちょっと自信があったんだ」  ほっとしたように息を吐いたナナさんもコーヒーに口をつけ、のんびりとした一時を過ごす。さっき出会ったばかりだというのに、長年連れ添った夫婦みたいな空気が流れている。ナナさんは不思議な人だな。  コーヒーを飲み終わると、そうするのが当然というように互いの身の上話をした。ナナさんは八歳上で出身は北の方だけど、大学も転勤前の支店も俺の出身県だったと分かって一気に親密度が増した。
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