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「僕を抱きたいの?」
「うん」
「どうして?」
「ナナさんに抱かれると、泣きたいくらいに幸せで、狂いそうなくらい気持ちいいんだ。ナナさんも……」
ずっと思っていたことを告げる。
ナナさんは俺に包まれてどんな気持ちになっているのか知りたかった。俺みたいに、生きていることに感謝したくなるくらい満たされているのか知りたかった。
それに、いつも俺が抱かれて感じている得も言われぬ幸せを、ナナさんにも感じて欲しいと思っていた。
「イチ……」
ナナさんが愛しそうに俺の名を囁く。
陽当たりのいいカフェでふわふわのショートケーキを食べているような、温かくて甘酸っぱくて、なんとも言えない幸福が胸に満ちる。じわりと目頭が熱くなってきて、我慢しきれなかった雫が頬を流れていく。
「分かったよ。準備してくるから、待っていて」
「うん」
チュウッと可愛らしい音を立てて涙を吸いとってくれたナナさんが、どんな不安も霧散させてくれる微笑みを浮かべて寝室を出ていく。
ナナさんの消えた扉を暫く眺めてから、床に乱雑に投げ捨てられているナナさんのシャツを拾う。そして、ギュウッと抱き締めたシャツに顔を埋めて匂いを嗅ぐ。
「ナナさぁん」
ナナさんに包まれているみたいで安心する。ことある度に匂いを嗅ぎたがる俺に、犬みたいだねってナナさんは笑うんだ。
「もうすぐ四ヶ月か」
生後四ヶ月ならば、まだまだ仔犬だ。擦り寄って甘えても許してもらえるだろう。
匂いを肌に塗りつけるようにシャツに頬擦りしながら、ナナさんとの出会いを思い返す。
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