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4 変わるもの
何を聞いても答えない息子に、両親はさぞ心配したことだろう。
その一件があってから塞ぎ込む僕のために、土曜日、幼馴染みの彼の元へと連れていってくれた。
たった一ヶ月前のことなのに、随分会っていなかったように思えてしまう。
「アレンだ!いらっしゃいっ!」
出迎えてくれた彼は、全く変わらず懐かしい手で僕の手首を掴んで家の中に招き入れてくれた。横に居てくれるだけでとても安心する。
最近始まったアニメの話や、新しいおもちゃの話。
次第に学校の話になっていった。
「新しい友達ができてね、休み時間はサッカーとか縄跳びとかするんだよ」
わかっていたつもりだったのに、目の当たりにするのは辛かった。
聞いた途端、胸が痛くなり思わずズボンを握りしめた。
「あと、幼稚園から一緒の子もクラスにいたから、みんなで鬼ごっこもするんだ」
僕がいない時間を、充実して過ごしているのが表情や内容、話ぶりから十分伝わってきた。子供の純粋さは、時に酷く心に突き刺さる。
彼が悪いわけではないのに、苦しくて少し泣きたくなって、オレンジジュースを飲んでごまかした。
彼にとって、僕は沢山いる友達の中の一人になってしまったようで。
特別だと思っていたのは、僕だけだったと言われているようで、楽しいはずの時間が一気に反転してしまった。
「アレンは、学校どう?楽しい?」
「……僕……、今度外国に行くんだ。だから、転校するの」
学校生活を楽しんでいる彼に、今の僕の話はできなかった。
嘘は言っていない。
何より、一つ大きな疑問と不安を感じてしまい、これ以上話せなかった。
「そっか……すぐ会えなくなっちゃうんだね」
悲しそうなその表情すら、本当なのか疑わしくなっていた。
今思えば、小学生がそんな演技を出きるわけがない。
する必要だってない。
でも、どこからか聞こえた気がしたんだ。
『可哀想だから、仲良くしてあげてたんだ』
教室で聞いた言葉が、彼の声で頭の中に再生された。
夕食を一緒にとり、別れたあと車の中でフッと悟った。
立ち止まっていたのは僕だけで、彼はもう同じ場所にはいなかったのだ。
それと同時に、また傷つくのが怖くなった。
こんな思いをするのなら、もう親友なんて作らない。
知らない間に大切な人が変わってしまう辛さは、二度と味わいたくはないから。
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