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おーい、誰か気付いてくれ
「ねえ、『入ると死ぬ家』って知ってる?」
聞いている内容に似合わない笑顔で祥子は僕の机の前に立つ。
2学期の中間試験がさっきの数学で終わり、帰り支度をしていたときだった。
「聞いたことはあるけど、それがどうかした?」
「今日さ、いまから行こうよ」
勢いよく僕の机に両手をつく。その動きに合わせ、祥子の短く整えられた黒髪が小さく揺れる。
祥子が前かがみになったことで祥子の顔が目の前にくる。あまりの近さについ目を逸らしてしまう。祥子は人と話すとき、必ず目を見て話すのだが、僕はその彼女の瞳が苦手で、なるべく見ないようにしている。彼女の瞳は日本人にしては珍しく薄い茶色をしており、あの瞳に見つめられるとなんだか心の奥まで見透かされたような気分になる。有り体に言えば、惚れてるのがバレるんじゃないかと心配になるのだ。
「い、今からは無理だな。バイトあるし」
「えー、じゃあバイト終わってからは?」
「バイト終わるの夜の10時だぞ」
「いいよ、じゃあ10時頃に連絡するね~」
ひらひらと手を振りながら、祥子はスキップし、廊下へ出ていった。
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