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「でも愛美のところには行かない」
私の頬に伝う涙を直矢さんの指が優しく拭う。
「美優の言うとおり、お互いの気持ちを整理しましょう。僕も美優への気持ちを改めて確認しますから」
この言葉に自分から促したのに切なくなる。直矢さんが私への気持ちを整理した結果、別れることになるかもしれないのに。私は正広と同じような結末を繰り返そうとしている。
「おやすみ美優……」
直矢さんは私の額にキスをした。優しくて温かい唇の感触はいつも以上に早く消えた。
「おやすみなさい直矢さん……」
直矢さんは私の顔を見るとそれ以上何も言わずに玄関のドアを開け私の部屋から出ていった。
◇◇◇◇◇
七夕の準備は滞りなく進み、愛美さんは腕の痛みがなくなったと直矢さんから聞いた。それなのに私の心は痛んだまま。
直矢さんから愛美さんの話を聞くのはお互い気まずかった。愛美さんの狙い通りとはいかなくても、私たちは恋人同士だったなんて信じられないほど距離を取った。隣のデスクなのだから物理的な距離は近くても心は離れてしまった。
自分から望んだのに直矢さんの存在の大きさを再確認してしまった。何でもないことを話す相手がいないというのは寂しい。テレビで観光地が映ると直矢さんとの旅行先のことを考えてしまう。
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