6 愛に包まれる女、愛を誓う男

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段ボールを抱えて会社の非常階段を下りる私は、数段後ろを下りる直矢さんの存在を嫌でも意識していた。抱えている段ボールには七夕祭りで配布するうちわが入っている。今から直矢さんはこの段ボールを銀翔街通り連合会に届けにいかなければいけない。ビルのエレベーターが点検中で使用できないため、仕方なく重い荷物を非常階段で下ろすことになった。 「こんなにあるんですか? 配るの大変ですね」 後ろの直矢さんに向かって話しかける。 「そうですよ」 直矢さんからは短い返答しか返ってこない。私が気まずい関係にしてしまったのだから仕方がない。まだ付き合う以前のように挨拶してもよそよそしいわけではないのは救いだ。 「私も手があいたときにうちわを配りにいくので声かけてくださいね」 「はい」 またも短い言葉しか返ってこない。自分でそんな空気にしてしまったのだけれど、時間を戻せるのなら私は絶対に直矢さんを遠ざけたりしない。 本当にバカみたいだ。愛美さんの言葉に動揺させられて何が一番大事なのかを忘れてしまった。 謝らなければ。バカだった私を大事にしてくれるこの人に。 後ろを下りる直矢さんは私以上に大きい段ボールを抱えている。今どんな顔をしているのだろう、と後ろを振り向いた瞬間右足を階段から踏み外した。 「わっ!!」 思わず抱えた段ボールを放り投げ、上半身が後ろにのけぞった。このままでは腰を、背中を、頭を階段にぶつける。 「いっ……」
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