ドラマチックなタクシードライバー

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 計画的に旅行先で利用される、雨の日に徒歩で帰るのが億劫なので利用される、酔い潰れ終電を逃してしまったので利用される。これはこれは、多種多様にご利用頂いているようで嬉しく思います。  乗り込み、行き先を指定し、目的地へ車を走らせた後に代価を支払われる。一通りの流れと致しましては、大まかにこのような感じではないでしょうか。  私も運送業である以上、そのルールに則って十数年余りを勤しんで参りました。事業区域の範囲内とはいえ、各々に様々な目的地へと行かれるお客様の手助けとなるよう、誠心誠意働いていたのです。  時には酷く酔われた方に絡まれも致しました。持ち合わせが無く、賃金を受け取れない日も御座いました。しかしそういった数々のエピソードでさえ、私が彼から受けた衝撃と比べますと、やはり霞んでしまうものだったと痛感しております。  平穏無事に過ごせている今でも、このようにして鮮明に思い返せるのですから。  あれは……そう、枯れ葉舞い散る十一月、秋の暮れのことでした。陽光は傾き、灰色の雲が流れゆく、冷たい風が荒んでいた日で御座いました。     
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