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「代金は後で必ず払う」とだけ言い残し、彼は私の車から降り、そのまま彼女の姿を追っていったのです。
八木さんの車から病院の担架に移され運ばれる彼女は、妊婦で御座いました。
彼が彼女の手を強く握っていたのを、私は八木さんと二人で見ています。
「へへっ……あるんだよな、こういうの……奇跡ってのがさ」
鼻先を掻き照れくさそうに笑う八木さん、呆然と立ち尽くす私。
笑ってやって下さい。
私の命は助かり……この日、新たな命も誕生したのです。
後から聞いた話なのですが、彼等はこの町に引越しを済ませたばかりで、まだ病院の場所を知らなかったそうです。救急車を呼ぶ時間も惜しく、偶然通り掛かった八木さんのタクシーに彼女を乗せて……えぇ、妊婦ですから後部座席を倒し横に寝る形で御座います。そこへさらに私が居合わせ、今回のような珍事を生んだのでしょう。
早産とのことだったので心配しておりましたが、お子様の経過も良好と聞いております。無事出産されたようで何よりです。
長らくご清聴頂きまして、誠にありがとう御座いました。
最後ではありますが、改めまして本日の良き日をお祝い申し上げ、私の祝辞とさせて頂きます。
多くの愛で繋げた命を、これから紡がれていく歴史を、どうか大切になさって下さいませ。
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