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ギネの暴君 その1
あれはもう30年も前のことになろうか。私は外科から出向になり、M病院の麻酔科で研修していた。
明日から麻酔科研修が始まる。その前日、挨拶のため麻酔科部長を訪ねた。そしてその日の夕方、部長に誘われ、同僚といっしょに近くのカラオケスナックに行った。〝カラオケルーム〟がまだ存在していない時代である。店に入ると、体の大きなおじさんが得意げに歌っていた。
カラオケスナックで歌を歌うには、店のママに100円玉を渡し、曲をセットしてもらって順番を待たなければならなかった。麻酔科部長が曲をリクエストした。数曲待って、次は部長の番だった。「いよっ、大統領!」ところがその直前に、先ほどの巨体おじさんがママにリクエストしたら、即座におじさんの曲がかかった。
「ちょっとママ! 僕の番じゃないの?」
「ごめんなさい……あのぅ、あちらのお客さんが……」
ママはバツが悪そうにうつむく。するといきなり「ジャーン!!!」と、例の巨体おじさんが首を突っ込んで肩を組んできた。
「それはだなぁ、誰がこの店にとって一番ありがたい客かってことさ。ママ、よくわかってるなぁ、ハッハッハ!」
この巨体おじさんは一体何者なのか?
「部長、誰なんです、この変なおじさんは?」
「宮本准教授だよ、ギネの」
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