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 自転車を止め携帯電話を背負っているカメラバックのポケットから取り出した。朝4時35分。実家のある市の西側にある市立公園に向かう道中。周りは外灯もなく田畠が暗闇の中に広がっている。道に迷ったと思い、携帯電話の地図アプリを起動させた。地図がさす場所は市立公園に向かう道の途中だ。田舎道なので道一本間違えるだけで他に行ってしまいかねない。そろそろ主要道と合流できるのを確認し、携帯電話をポケットにしまい、自転車のペダルを踏んだ。幾分進むと片側一車線の対面交通ができる広さの主要道と合流した。車の通りがない主要道を西に向かう。暗闇の中進むと川の堤が暗闇の中うっすらと見えた。あたりには霞が立ち込め始めている。道中のその光景は、下宿先の近くにある総合病院から実家近くの大学病院へと移ってきた自分と重ねてしまった。健康診断で首に腫瘍が見つかり下宿先近くの総合病院で診てもらった。しかし、病名がわからずに、実家近くの大学病院に行ったのは昨日だった。病名は分からずじまいだが、市の広報看板で市立公園で桜祭りをしていることが分かった。まだ三月下旬だが枝垂桜は満開らしい。再診の日程を決めて昨日は病院を後にした。まるで霞の中を進んでいるような感じが残る。 川に架かる橋を渡り明かりがまだともっていない集落の端まで来た。珍しく街灯がともっている丁字路の傍らに桜祭りをしている市立公園への看板が見えた。その看板に従い南へと曲がった。東の空がほのかに明るくなり始めている。日の出前に着きたい気持ちを落ち着かせゆっくりとペダルを踏んだ。牛舎を横目に過ぎまた、丁字路が見え再度暗闇のある西へと折れ曲がった。  数分ほど走らせると薄いピンク色の枝垂れ桜が見えた。市立公園は無料開放されているのでそのまま中に進んだ。枝垂れ桜まで伸びる石畳の道の入り口で自転車を降りて押して進んだ。日の出前に着いた。長野から枝分けしてもらったその枝垂桜は誰にも見守られなく薄い桜色の花びらを咲かせている。カメラバックから一眼レフを取り出し数枚写真を撮り自転車にもたれかかった。後は日の出が出て色を少しづつ変える優美な桜を眺めた。また、来年見れるかな。
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