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「やった~!」と歓声を上げる女子大生。そんなに喜ぶことだろうか。この地方物産展のキャラクターと写真を撮ることがそれほどまでに嬉しいのか? いや、違う。おそらく彼女は「写真を撮って喜んでいる自分がかわいい」だけであって、私と写真を撮って喜んでいるわけではない。その証拠にほら、彼氏が目を細めているのを横目で一瞬確認して頬を数ミリ持ち上げたのを私の大きな眼は見逃さない。着ぐるみは瞬きをしないのだ。瞼を持った着ぐるみは緑色の恐竜の子供を筆頭に何体か存在するが、私は未だ瞬きをする着ぐるみを知らない。
別段女子大生に嫉妬しているわけではない。むしろ彼女の幸せは私の幸せである。私は着ぐるみ。しかもプロ根性たくましい着ぐるみなのだ。事実私が着ぐるみを担当した際は売り上げが実に好調であると店長がおっしゃっていた。プロ冥利に尽きる。
だがここで疑問が一つ。私のプロ冥利はどこから来ているのだろうか?
プロとしての着ぐるみ業。前提として、私は例え高校生のアルバイトであっても金銭の教授が発生している以上プロであると考えており、その金銭関係こそがプロである唯一の証であるとも考えている。「誠意は言葉でなく金額」という言葉があるが、まさにその通り。我が意を得たりと思った。
だから、たとえ時給860円でも私はプロの着ぐるみ。そしてそのプロの着ぐるみはどうするべきか。それを常に突き詰め忠実に実行している。ただそれだけだ。そしてプロとしての任務遂行こそが私を満足させる。世界よ、私は殺し屋ではなかったことに喜ぶがよい。デューク二世と呼ばれていたことだろう。果たしてこのバイト代もスイス銀行に振り込まれていたらなかなかどうして様になるのではないだろうか。
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