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 ちらりと時計を見る。見たい。しかし見れない。買い物帰りのおばさま方が野放しにした子供が私の足元を襲う。極端に視界の狭いこの着ぐるみで確認不十分な反転を実行すると、この長い耳が子供の頭を叩きつけるだろう。 「……」  子供が私の足にしがみついたまま離れない。  ここに着ぐるみの悲哀がある。千葉の人気者なら発言権があるが、基本的に多くの着ぐるみに発言権は付与されていない。世界観の構築ないし維持というよりは、設定が定まっていない条件下で自由度に制限があると言った方が正しいだろう。そんな中で、ダンマリの子供とコミュニケイションをとるのはいささか難易度が高い。鉄コミュニケイションならぬもふもふコミュニケイション。 「……」 「……」  流れる沈黙。おばさまよ、もし願いが通じるならば今この場に来て通訳を実施して欲しい。なぜならば、着ぐるみのプロとしての使命、その本質は子供の相手をすることではなく物産展の売り上げを増やすことにある。からして、こんなところで立ち止まっている暇はないのだ。ともすうると、本能的にあと数秒でこの子供を振り払ってしまうことになるだろう。そうなると子供がギャン泣きする光景が目に浮かぶ。しかし私は実行しなければいけない。なぜなら私は着ぐるみのプロだから……。 「……ッ! うわ~~~~~~~ァァァぁああああああああああ!!!!???? おおおおおおおお!!!????」     
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