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結論から言うと、私はその大きな白い手を使ってそっと子供を足から引きはがした。少年よ、頼む。強く生きろよと念じながら。そしてその願いは伝わらなかった。現実はかくも厳しいのか。
甲子園のサイレン宜しく豪快な雄たけび。マウンドに立っていなくても第一球もといさじを投げたくなる。ああ、大目玉。
おばさまがすっ飛んでくる。ものすごい剣幕だ。デッドボール食らった外国人でももう少しゆっくりくるだろう。
「……ザマス! ウチの! 子が! 何をしたって言うザマスか! ここの危機管理はどうなっとるザマスか! もうちょっと何なの!!!」
半分程度しか聞き取れなかったし、頭の中で「ザマス!」を一々語尾に付けて遊んでいたせいか内容は全く頭に入ってこなかった。プロ失格かもしれない。
騒ぎを聞きつけた店長が慌てて飛んできた。「申し訳ありません、申し訳ありません」と平謝りである。である、と言ったが私ももちろん頭を下げる。プロだからだ。
私の頭を下げさせたのは、店長に対する申し訳なさでもなく、おばさまに対する通り一遍の作業でもない。ただ、私は着ぐるみであるというプロ意識によって頭が下がった。それだけである。
やはり着ぐるみが私を規定しているのだろうか? そんなこともない気がするのだが……。
そしてその後店長にこっぴどく絞られた。プロだから頭を下げた。プロだから。
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