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彼はいつもそうだ。正解を知っていて、それでいて回りくどく私の外堀を埋めていく。真綿で首を絞められる……ワケじゃないけどその真綿が心地良くって彼と一緒にいるとも言える。
「じゃあ私はどうすればいい? 「着ぐるみ」のプロか、それとも「物産展の売上向上の使命に燃える一店員」としてもプロなのか? それすらも分からないのよ」
やにわ彼がスっと立ち上がる。マクナルの2Fに大巨人降り立つ、といった構図になる。多分170くらいしかないけど。態度の問題だ。
直ぐにスっと座った。シェイクを傾けてストローを奥深くに突き刺し、残りをすする。貧ぼっちゃまかよ。恥ずかしいな。ほらまたジョボジョボ言ってるし。
「僕は正解を知っている」
すぐに言わないから今一つ説得力が無くなった。こういう間の悪さも気に入っているのだけれど。
「それは何?」
視線が交差する。彼はシェイクをまだすすっている。自分は顎に手をついてふふんと笑ったような、泣いたような。
ずるずると鳴っていたシェイクが止んだ。今旅立ちの時だ。再び彼が立ち上がって宣言した。
「それは……「着ぐるみ」以外の着ぐるみも着てみよう! ってコトだ」
決め台詞でござい、という気迫。
なるほど! と納得したかった。したかったのだが――
「ん? 何? 着ぐるみ?」
疑問を彼にぶつけつつ、私もバサバサとトレイを片付ける。バーガーが入っていた黄色い紙は丁寧に折りたたんである。なんとなくプロっぽいからだ。
「ん? 分からん?」
「分からんわよ、そりゃ。何? 恰好つけるなら最後まで恰好つけてよ」
ほら、と彼の背中を押す。「う、うん」と明らかに戸惑った返事をして、ギクシャクと出口に向かう彼。ツメが甘いなあ。
「ありがとうございましたー」
マクナルの店員に見送られる。駅に向かって歩く彼の背中は、さっきより少し小さいかもしれない。
「で、「着ぐるみ以外の着ぐるみを着よう」ってなんなの? コスプレしろってこと?」
うりうりと彼を小突く。嫌そうに払いのけるそのしぐさがたまらなくもある。
「いや、なんと言うか……さっきの忘れてくれない?」
にこっとどうしようもない笑顔を投げつけてくる。
「イ☆ヤ。早く説明して?」
こちらも最高の笑顔を投げ返す。ううん、と唸る彼。ぐりぐり絞ってやる。ぞうきんのごとく。
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