消しゴム

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 あいつの優しい笑顔は、幼稚園の頃と全然変わらない。  人懐こい瞳が、俺を見つめる。  運動会の対抗リレーで、他の奴らを全部抜いてトップになった時なんかは、あいつの顔は弾けるように輝いた。 「どーだっ涼太!俺の走り見たか!?」 「すごいすごい駿っ!やっぱかっこいいなあーー!!!」  頬を紅潮させ、瞳を輝かせて走り寄ってくるあいつに、満面のドヤ顔をしてみせる。  ……もしかしたら俺は、こんな風にこいつを微笑ませることが、何より嬉しいのかもしれない。  クラスメイトの歓声に囲まれながら、俺は漠然とそんなことを思った。    そんなあいつとの関係は、ある時を境に変わっていった。  小学校も高学年になると、一人ひとりのキャラクターがはっきりしてくる。  気づけば、あいつと俺は、全く違う時間の過ごし方をするようになっていた。  あいつは、本を読んだりして静かに過ごすのが好き。  俺は、いつも友達と絡んでわいわい騒ぐのが楽しかった。  ……あいつにも、俺の側にいてほしい。  これまでと変わらず……いや、これまで以上に。  俺は、無意識のうちに、強烈にそんなことを望んだ。  あいつが離れていくと感じるほど、引き止めたい思いが暴れる。  けれどーー  いくら、そんな思いが暴れても……  じゃあ、どうしたらいいんだ?  その答えは、いくら考えてもさっぱりわからない。  そんな行き場のない不満はーーガキくさいちょっかいであいつを無理矢理自分の側へ引っ張り込む、そんな乱暴な行動にしかならなかった。  あいつとのそんな関わり方に、ある日、とうとう亀裂が入った。 「ーーそういう乱暴なヤツ、僕は嫌いだ」  このままいったら、いつか、こうなる。  わかっていたことなのに。  その言葉を突きつけられた俺は、呆然とした。  俺には、これがただの喧嘩には、どうしても思えなかった。 『ーーお前の側から、もう離れたい』  あいつの言葉は……そんなふうに、俺の心に深く突き刺さった。  ーーもう、あいつには近づかない。  そうやって……あの時。  俺は、あの笑顔を手放した。  小6も終わり間際の、2月。  父と激しい言い争いをした末、母が家を出て行った。  二人とも仕事を持ち、元々それほど親に甘えて育ったわけでもない。  以前から喧嘩が絶えず、仲が悪いこともわかっていた。
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