消しゴム

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「あ…… 僕も、委員会で遅れたから……」  俺ひとりに向けて、あいつが言葉を発するのは、本当に久しぶりだった。  お互いにこじれてしまった感情が、いきなり強く擦り合わされるように……その場の空気が、ギリギリとおかしな音を立てそうだった。  あいつはそんな空気に苦しげに反応し、頬を一気に紅潮させて必死に着替えを進めた。  華奢なうなじに、柔らかい栗色の髪がかかり……あいつの動きに合わせて、透けるように白い背の滑らかな肌が動く。  その横顔はまだどこか幼いけれど、整った鼻筋や顎の輪郭は、昔とは見違えるほど大人びている。  真っ直ぐに伸びた脚の綺麗な腿が、バスタオルの裾から見え隠れする。  目を合わせることもできずにいた間に……あいつは、驚くほど美しく変身していた。  ーーどうしても、目が吸い寄せられ、逸らすことができない。  こんなにまじまじと見つめてはおかしいと、わかっているのに。  俺の視線に捕らえられていることを、あいつもビリビリと感じるのだろう。 「じゃ先行ってる」  バスタオルできつく自分の身体を包むと、あいつは更衣室から逃げるように飛び出していった。  ーー自分の鼓動がおかしいほどばくばくと乱れ、一向に治まろうとしない。  何もかもが鬱陶しい。  身の回りの何かをじっと見つめるのも、面倒臭い。  何にも深く関わらない。……それが結局、一番楽だ。  ーーそう思って、やってきたのに。  ……うるさい心臓、止まれ。  俺を嫌いなあいつと、あいつを遠ざけたい俺。  なのに……なんだこれ。  ふざけるな。ーー鎮まれ。  俺は、そんな意味不明な動揺と苛立ちを、プールの水面へ散々叩きつけた。
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