消しゴム

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 中学3年の夏。  進路を確認され、受験勉強を大してしなくても受かりそうな高校を選んだ。 「なんでお前、ぜんっぜん勉強しねーのにそこそこの点取るわけ?ほんっとムカつくわ」 「俺は別にぜんぜん点取れなくたっていーんだけどさ、どーでもいーし」 「あーこういう奴の言うことっていちいちムカつくわー」  他の奴らが必死に机に向かっている時間も、俺の中に何かにしがみつく意欲は生まれなかった。  全力で勉強に励む奴にも、いい加減な奴にも、時間は流れた。  そして、3年の3月。  俺は、その辺の適当な高校に合格した。 「よかったな、駿。おめでとう」  父親は、ボソリとそう言った。  どこか居心地の悪そうな表情の奥に、安堵と喜びが見える。 「……ああ」  俺も、なんだかボソリとそう答えた。  ーーあいつは、どうやらずいぶんいい高校に受かったらしい。 *  花吹雪の舞う中、卒業証書をカバンに適当にぶっ込んで帰宅する。  中学時代のいろいろをシャワーで洗い流し、適当に夕食を済ませ、自室でゲームや漫画を適当に楽しんでベッドにどさっと寝転んだ。  ーー今度こそ。  あいつは俺から、遠く離れていく。  絶対に届かないところへ。  ーー清々する。  なのにーー  その夜、あいつが現れた。  ワイシャツから、白い首筋と肩を露わにした、あの夏の日の姿で。  眠っている俺に、その肌を添わせーー  滑らかな唇で、何度も俺の唇を塞いだ。  必死に手を伸ばしても、腕は虚しく空を掻く。  それなのに、あいつは俺から離れない。  そして、その微笑みは昔のままーー俺を見つめて、何度も柔らかく綻んだ。  ようやくその肩を掴み、力一杯引き寄せた。  細い腰に、きつく腕を回す。  その美しい首筋に、やっと頬を埋められるーー  そう思った瞬間に、目が覚めた。  朝になっていた。  静かな部屋に満ちる、春の日差し。  涙が、頬を伝っていた。  そして、自分の下着が、温かく湿っていることを知った。  
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