漫画

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 僕は、彼が苦手だ。  ある時までは誰よりも仲の良かった、彼が。  彼とは、保育園から一緒だった。  身体も小さくて引っ込み思案な僕と、いつも元気で仲間の先頭にいるような彼は、まるで正反対。  けど、僕がひとりで俯いていたり、泣きべそをかいたりすると、必ず側に来てくれた。 「おい、りょうた……どしたんだよ?」  つっけんどんに、そんな言葉をかけてくれた。  そして、そんな時は決まって、バカみたいなヘン顔をぐいぐい僕に近づけて来た。 「オラオラ見ろー!」  悲しい時に、そんなことされてもうれしくない。  そう思いながらも、彼の顔を見ると、どうしても笑ってしまった。 「……ぷっ……」 「げへへ、どうだー」 「あはは、やめてよしゅん」 「こんどはもっとすごいぞ」 「きゃはははっ!!なんだそれー」 「……ちょっと元気でた?」 「…………うん」  少しも何かが解決したわけじゃないのに、大笑いした後は、悲しさがすっと遠くなった。  大丈夫、と思うことができた。  自分ひとりだったら、僕はきっといつまでも俯き、泣いていたはずだ。  単純すぎるやり方だけれど……彼は、そんな風にいつも僕の心を助けてくれた。  小学校に入学し、僕と彼はクラスメイトになった。 「あーーー!今日図工でのり使うんだった!持ってくるの忘れた!」 「駿、忘れたの?じゃあ一緒に使おう」 「涼太ぁ、消しゴムどっかに落とした!どうしよー?」 「僕二つあるから、貸してあげる」  こんなことは、もうしょっちゅうだった。 「涼太って、いつもちゃんとしててえらいなー。忘れ物もしないし、宿題もちゃんとやってくるし」 「あはは、駿がいろいろ忘れすぎるんじゃない?」  僕が笑うと、彼はいつも何だか嬉しそうだった。  運動ができて、いつも明るい彼は、みんなの人気者だ。  運動会では、決まって対抗リレーの選手に選ばれた。  ハチマキをなびかせて他の選手をゴボウ抜きにする彼は、文句なしにクラスのスーパーヒーローだった。 「涼太っ!俺の走り、ちゃんと見てたかよ!?」  そんなファインプレーを見せつけ、キャーキャー騒ぐ女の子たちをかき分けて僕の所へ来ると、いつも満面のドヤ顔でニッと笑って見せた。  キラキラと輝くような彼が、僕の側で楽しげにおしゃべりしている。  こんな風に、笑い合える。  それが、僕には心から嬉しかった。
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