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僕と彼は、ずっと同じクラスで小学校を過ごした。
学年が上がるにつれて、遊び方も少しずつ変わる。
僕は、本を読んだりすることが面白くなった。
彼は、ますます活発な遊びをすることが多くなった。
小学5年のある時期、彼はふざけて仲間にプロレスの技をかける事を面白がるようになった。
今思えば、子犬がじゃれ合うような他愛のない遊びだったけど。
彼は、席に座って本を開いている僕に、しょっちゅうそんなちょっかいを出しては面白がった。
僕は、本の世界を乱暴に邪魔されることと、一方的に技をかけられて周りの友達の笑いのタネになることが、だんだんと辛く感じられるようになった。
「おらあーヘッドロックーーー!!」
「うあっ!い、痛いって!!」
その日も、僕はいきなり首に腕をかけられ、ぎゅっと締められて思わず仰け反った。
「へーこれだけでもうギブかー??」
「あーあ涼太くん、またやられてるー」
それを見ている周りの女子が、いつものようにくすくすと笑う。
……なんでだよ。
こんな風に、自分を平気で笑い者にして。
何も言えない弱いヤツだと見くびって。
僕の気持ちなど全くおかまいなしに。
……昔は、いつでも僕を助けてくれたのに。
少しずつ心に蓄積したそんな思いが、プツリと切れ……一気に、頭に血が上った。
「駿、そういうのもうやめてくれ」
その場の空気にそぐわないような、尖った言葉が口をついて出た。
「へ?なんだよー最近お前のノリが悪いからだろー」
ヘラヘラとそう返してくる彼に、一層腹が立った。
「ーーそういう乱暴なヤツ、僕は好きじゃない」
一瞬、その場が静まった。
彼も、驚いたような真剣な目で僕を見つめている。
言ってはいけない言葉だっただろうか?
仕方ないだろう。僕は怒ったんだ。
怒りの突沸した頭には、その空気をフォローする余裕なんかない。
「……ふうん。そーか。
ーーなら、俺もうお前と口きかねーし」
「…………」
くすくすとこっちを見ていた女子も、居心地の悪い空気をごまかすように、慌てて僕たちから遠ざかった。
言いすぎた。ごめん。
その瞬間に湧いた思いをーー
僕はどうしても、口にすることができなかった。
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