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ほんの小さな出来事で生まれた溝は次第に大きくなりながら、僕たちは同じ中学へ進んだ。
子供から大人への感情が複雑に混じり出す環境の中で、次第にどこか崩れた空気を纏うようになった彼に、僕はいつしかビクビクとした恐怖感を抱くようになった。
違うクラスになったが、彼は5組、僕は6組。
クラスの距離が近い息苦しさも、ずっと僕につきまとってくる。
髪色も表情もすっかり変わってしまった彼。
昼休みの廊下などで、時々じっと睨まれている気がしたり。
もしかしたら、彼が連んでいる連中に絡まれるかもしれないーー段々と、そんなことも考えるようになった。
どこかで勇気を出して、あの時のことを謝れたら……そう、何度も思った。
でも、それと同時に、昔とはもう違う彼の冷ややかな視線が思い浮かび……灯りそうになった勇気はあっという間に消えてしまう。
心の中で、そんなことをくよくよと思い悩むくせに……
彼が僕の方へ少しでも近付きそうな気配を感じると、僕の身体は反射的に逃げ出した。
雰囲気のガラリと変わった、時々何処か暗い表情をする彼は、とても美しく見えてーー
そんなことも、僕の中で意味のわからない恐怖感に変わっていった。
彼が、もしも僕の前に立ち塞がったとしたら……
そんなシーンを想像するだけで、苦しかった。
中2の夏。その年初めてのプールの授業。
体育は、5・6組合同で行うことになっていた。
委員会の仕事で少し遅れた僕は、一人残った更衣室で急いで着替えをしていた。
着替えをする僕の背後で、俄かに入口のドアがガタっと開く。
ワイシャツを脱ぎかけたまま驚いて振り返ると、彼が勢いよく部屋に踏み込んできた。
「……やべ、遅れた」
僕を見て一瞬ギクリとしたような顔をしてからーー彼は付け足すようにそう呟く。
「……あ……
ぼ、僕も委員会で少し遅れて……」
そんなどうでもいいことをボソボソと返し、僕はますます早く着替えを終わらせたくて焦った。
空気を和ますような会話なんか何一つ見つからない。
彼の鋭い視線が背中に刺さるのを、強烈に感じる。
頭に血が上り、心拍数が凄まじい上昇を始めた。
手が震え、脳の指令通りに指が動かない。ボタン一つ外すのさえ、とんでもなく長い時間に感じる。
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