漫画

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*  そして、3年の夏も過ぎ。  僕たちは、いよいよ受験に向けて机に向かう時期を迎えた。  ーー彼とは、違う高校へ行きたい。  気づけば僕は、そんなことばかり考えるようになった。  あの鋭く刺さるような視線から、逃れたい。  謝ることさえできずーー後悔の気持ちをどうにもできない情けない自分を、これ以上見つめたくない。  そんな、何かに責め立てられるような息苦しさに追いかけられた。  心の奥は、誰にも見えない。  僕は、みっともなく腰の引けた心を押し隠しながら、一点でも偏差値の高い高校を目指して必死に勉強した。  目標に向けて突っ走る時期は、振り返ればあっという間に過ぎ去った。  中学3年の3月。  僕は、予想以上にレベルの高い高校の合格を手にしていた。  彼の行く高校はどこなのか、よく知らない。  けれど、彼とは違う高校であることだけは確かだった。  苦しい時間を、それなりに頑張った。希望したものに、手が届いた。  4月からは……彼も、もういない。  さまざまな情けなさや自信のなさーーそんなものから少しずつ解放され、僕は大きな充実感に満たされた。  中学の卒業式を終え、桜吹雪の散る青空を仰ぎながら帰宅する。  心に明るい火の灯ったような気持ちで、ずっとほったらかしだった机を綺麗に片付けた。  机の奥から、一冊の漫画が出てきた。  それはーー小学生の時、彼に借りたものだった。  借りた後、あの喧嘩をして……面白かった感想も話せないまま、机の奥に押し込んでいた、漫画の本。  ずいぶん昔のことなんだし……  捨ててしまおうかーー一瞬、そんな思いがよぎった。  けれどーーそれを借りた時の、彼の笑顔がふっと浮かんだ。 『面白かったらまた貸すからさ、俺全部持ってるし。俺のお気に入りなんだ。……お前もきっと、絶対ハマるよ!』  そんな、温かさに溢れた彼の声と、零れるような無邪気な笑顔。  きっとこれは、彼の大事なものだったんだ。  もしかしたら、今もーー探しているかもしれない。  本についたホコリを丁寧に拭き取り、綺麗な紙袋に入れた。  これだけは……彼に返そう。  そして今度こそ、彼の目をしっかり見て、あの日のことを謝ろう。  それができたらーー今度こそ本当に、僕は彼から解放される。  懐かしく、どこか怖くて……なのに、寂しげに美しい、あの瞳から。  
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