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あいつは、俺の親友だった。
親友……のはずだった。
ーーある時までは。
あいつと俺は、保育園から一緒だった。
小さくて細くて色が白くて、くるくる笑ったり泣いたりするやつだった。
俺にはなんでもないことも、あいつには苦しいことや、悲しいことになるみたいだった。
理由もよくわからないまま、悲しそうに俯いたり、ぽろぽろ涙を零したりする。
一人ぼっちでそんな顔をしているあいつを見ると、俺はよくわからない気持ちになった。
なんですぐ泣くんだよ!とイライラする気持ちと、すぐにでも涙を止めてやりたい気持ちがごちゃごちゃになった。
けど……泣いている理由を聞いても、どうせよくわからない。
自分のとっておきのヘン顔で無理やり笑わせるくらいが精一杯だった。
「どしたんだよ、りょーた」
「……なんでもない」
「へー。……じゃ、下見てないで、こっち見ろよ」
「……ぷっ……」
泣いていた顔が、我慢できないようにちょっとだけ笑う。
俺はますます面白い顔になって、あいつの額に自分の額をぐりぐり押し付ける。
「げへへ、どうだー」
「あはは、もうやめてよしゅん」
「ほらーもっとすごいぞー」
「きゃはははっ!!なんだそれー」
笑顔の戻るあいつを見ると、俺も嬉しくなった。
青ざめていた頬がぱっと桃色になり、口元がふわりと綻ぶ。
暗い雲間から日差しが差し込むような、柔らかく輝く笑顔。
俺はいつも、それが見たかった。
「……元気でた?」
「…………うん」
「じゃあさ、いっしょに外いこーよ。いちりんしゃ、おもしろいからさ!」
俺の手をぎゅっと握るあいつの手が、俺には何よりも大事なものだった。
小学校に入学し、あいつと俺は同じクラスになった。
あいつは勉強ができて、宿題も毎日きちんとやってくる。忘れ物をして困っている様子も見たことがなかった。
その辺適当な俺とは、正反対だ。
俺がしょっちゅう忘れ物や無くし物をしても、あいつはいつも嫌な顔一つせず俺を助けてくれた。
「涼太ぁ、消しゴムどっかに落とした!さっきまであったのになんで!?どうしよー?」
「えー、またぁ?……じゃ、僕二つあるから、ひとつあげる。なくさないでよね?」
「サンキュー!涼太って、いつもちゃんとしててほんとえらいよなー」
「あははっ!えらいんじゃなくて、僕が普通だと思うよ?」
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