幽霊屋敷の一夜

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 ギィィィィ・・・・・・  小さいが強力なペンライトを持って、おれはなかに入りこんだ。  空気が悪い。  内部は埃が厚くたまっていてカビくさい。  管理業者のたぐいがいたとしても、どうやら朽ちるにまかせている。  そんな印象だ。  家具のたぐいは一つも見当たらない。  ライトが照らし出すのは何にもない壁と床。そうして天井。  窓はすべて雨戸で締め切られている。空気が悪いのも当然だ。  二階がどうなっているのか分からない。が、天井にも壁にも雨漏りだろうか?  ひどいシミが重なりあっている。   床も似たような状態・・・・・・けれど、年月に比して腐食はそれほど進んでいないようだ。見た目だけかもしれないが。  確かに「雰囲気」はある。  おれは公正だから、それは認める。  だが、それだけだ。  一家皆殺しが、ここであったって?   本当だろうか。  仮にそんな惨劇が過去に起こったとしても。血しぶき、血だまり、そんなものはうかがえない。  あるいは「シミ」と区別がつかない。  常識的に考えて事件後、清掃ーーされたんだろう。たぶん。  おれ以外の「何か」が徘徊したーーそんな痕跡があるわけでもない。  埃の上には足跡すらない。  あのバカは色々言っていたけれど。こんなところを面白がって訪れたヤツなんて、いるんだろうか? あるいはろくでもないアソビ場にした、ろくでもない連中とか。   荒らされた様子もなければ、飲食物の残骸。落書きひとつ、ありはしない。  玄関のドアは、あの通り「自由通行」状態だったというのに。  何もーーない。  まして。  「幽霊」なんか、どこにもいない。  妙な気配。  うめき声とか泣き声とか。二階をギシギシ、歩きまわる足音。  それから最近はオーブとか言うのだったろうか。不可解な光りもの。  そんなモノもまったく、ない。  見えもしなければ聞えもしない。  ホラー映画ならそろそろ「えたいのしれないモノ」が。  屋内に入り込んだ人間の前に突然、天井からふってきたり。  怪談ーーいや、階段から髪をふりみだした女が、  ずるずる  と這いずって降りてくるところだろう。  ばかばかしい。          
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