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それからも時々、私はさも通りかかった振りをして彼のクラスに行っては、何かしら話しかけていたんだよね。
さりげなさを装ったつもりで、ちょっと寄ったみたいに。
ううん、どう見ても他の人には気持ちが駄々漏れだっただろうけど。
伝わってないのは本人にだけだった。きっと。
お弁当をたべてる時にそっと近寄って話しかけたこともあった。
おかず何が入っているのかなぁって好奇心もあって。
めっちゃ茶色の地味なお弁当だったね。
その時、だいすきな釣りの話をしてくれたっけ。
「やまめ、って知ってる?」って言いながら、昔のお父さんが持ってるような平たい銀のお弁当箱にふたの裏に、こう、って箸で漢字を書く。
「山女魚」で、やまめって読むんだ。
「ふぅん。どんな魚? 川魚? 昔、長瀞で刺さってる焼き魚、食べたことあるかも」
「それは多分、岩魚だな。山女魚はもっと下流でも釣れるんだ。刺身で食べるとうまいんだぜ」
すきなことを話してくれる君はとても嬉しそうで。
私はこうして話ができると、ほんのりとあたたかくなった。
でも、反対に君がやって来ることは一度もなくて。
いつも自分ばかり声をかけて、迷惑だったらいやだな、って思いながら、少しずつなくなっていく勇気。
ちがうクラスの垣根を越えて歩み寄るって、割と度胸がいるんだよ。
なんとなく、他の女子の目も気になるし。
受験勉強に入って、さすがにのん気な感じも出せなくなって、もう遠くからただ見ていた。
ついでにインフルエンザにかかってしまって、肝心の卒業式に出られないおまけつき。
卒業おめでとう。
クラスメイトが電話をくれて、誰かが誰に告白したとか教えてくれたけど、彼はどうしたのかな。
君はすきな女の子、いたのですか。私のことはどう思っていましたか。
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