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*  大学に入って1年が経った、ある晴れた午後。  文房具店でノートを見ていたら、私に向かって近づいてくる足音がした。 「久しぶり」って、忘れられないあの声。 「元気?」  突然のことになかなか言葉が出てこない私に 「遠くからでもすぐにわかったよ」って。  それは、私が全然変わってないって、ことなのかな。  そういう君も、全然変わってなくて、でも詰襟じゃなくて私服で。  ストライプのシャツなんか着ちゃって、やわらかく見えた。  眼鏡、かけてないね。目も細めてないから、きっと君もコンタクトなんだ。  何を話しただろう。  確か今どうしてるとか、誰と会ったことがあるとか、そんな他愛ないこと。  そっと腕時計を確認して、「じゃあ行くね、バイバイ」と手を振って、さわやかな笑顔で去って行ってしまった人。  私はその日、お気に入りのチェックのワンピースを着ていたことだけが、その姿を見てもらったことだけが、あとから思い返して、ずっと嬉しかったんだ。    あの時と同じ季節がまた巡ったんだね。  風がさわさわと頬を撫でていく。  君は、今も元気ですか。  私はまだ、少しうつむいた君の写真を持っているよ。  何度も見つめたあの横顔のね。 結
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