4/5
886人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
話を聞いていた榊が「ふん」と 鼻を鳴らしたが 玄翁は続けた。 「奴等は、その土地の文化や風習を尊重した。 鉄砲や南蛮の酒を伝えはしたが、土地ごと異国に染めようとはせなんだ。 その頃は まだ、儂等も今よりずっと 人里に密着して暮らしておった。 今よりずっと(あや)しの文化もあったのじゃ」 つまり、今より化かすことが盛んだった と。 「人々は 儂等を疎ましく思うておった。 畑を荒し、魚や揚げを盗まれる。 人に憑いては狂わせる、と。 儂等を無意味に狩って遊ぶ といったことは さておき のう」 身を摘まされる話になってきたな... 朋樹が バツが悪い顔になった。 たぶん、オレもだろう。 「人々が困れば、奴等は その利他的な精神で 人々を助けようとする。 子を撃たれ、仇討ちに憑いた同胞は 奴等の儀式によって無になった」 ... 無? 「憑いたヤツを剥がすだけじゃないのか?」 そう聞くと、玄翁は 「あれは... どういえばよいのかのう。 人の身から剥がされると、そのまま魂魄は 元の身に還らず、蒸発するかのように見えたのう。 弔おうにも、身も消えるのじゃ。 輪廻の道からも外されるのやもしれぬ。 儂等は大勢の同胞を失った。 憑いた者や化かした者ばかりか、山で静かに暮らしておった者共すらものう」と 答えて 空を仰いだ。 どうやら、憑いたヤツを祓い落とす とか 死に至らせる、とかでも ないらしい。 「儂等は人と近くにあるが、自然に側しておる。 人がおらずとも存在するのだ。 対して、奴等の敵対する魔というものは 人がおらねば存在しまい。 聞けば その魔というものは 元はその神から生み出され 神に仕えていた者だった、と言うではないか。 儂等は... いや儂等だけではなく、自然に側する者共にとっては、魔に対する呪というのは強すぎるのだ。跡形も残らぬほどにのう」
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!