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玄翁が話し終えると、榊が 鼻息を荒くして続けた。 「儂らは、幼少の頃から話を聞かされておるのだ! 伴天連どもに、どれだけの同胞が 元よりおらぬものとされてきたか... いつか冥府に向こうても会えぬのだぞ! 儂は幽世(かくりよ)の番人となって 子が親を、親が子を、妻を、夫を... 幾年も 愛する者を探し続ける者等を見たのじゃ。 その なんと哀しいことよ。 奴等にとって、()に生きる者の尊厳などない! 奴等こそが 我等にとっての魔の者じゃ!」 榊は 楠の根元から立ち上がりながら キッとオレを睨む。 「儂は もう、あんな店など行かぬぞ! 伴天連が うろつく人里になど誰が行くものか。 儂等だけではない。 他の種の者共だって行くものか! 朋樹は ともかく 泰河、お前は商売もあがったりじゃ。 この辺りでは もう怪異など起こらぬからの。 最近、仕事がないのは このせいじゃな!」 「えっ、何 怒ってんだよ、お前」 「だいたいのう あの ルカなどという男の背後にも、得体の知れぬ影がおったのじゃ! 伴天連まで連れて来よって... 」 「影? なんだよ それは?」 榊は ふいっと顔を背けると、楠の向こうへ駆け出しちまった。 「おい、榊! 待てよ!」 伸ばした手も虚しく あっという間に、山に消える。 「すまんのう、泰河。あのような態度を取って。 榊は、奴等が恐ろしいのじゃ」 「あ、いや... 」 「これに懲りず、また里にも参られよ。 次は 酒でも持ってのう」 「あ、うん、悪いな 今日は... 」 儂は 葡萄酒とやらを飲んでみたいのう と 玄翁も楠の向こう側へ去って行った。
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