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イスに着こうとすると、榊が オレのシャツを引いて止め、ガキに 「あんた、やめときなよ」と諭しだした。 「昨日、7枚も負けただろ。 まだ学生なんだし、そこで降りときなよ」 榊のウォッカで濡れた赤いくちびるを動きを ガキの眼が追う。 「昨日も途中で止めたじゃないのさ。それを こいつに会うまでに せっかく何人もに勝った分 全部 空にしちまってさ... 」 ガキの眼から緊張が解けて、口が薄く開いた。 「生き死にって話じゃあるまいし 熱くなるんじゃないよ、まったく」 榊が ため息をつきながら、グラスを僅かに動かすと、ウォッカの中で氷が揺れた。 ガキが イスから ゆらりと立った。 「ほら... 帰りな」 榊が グラスを店のドアに傾けると、ガキは そっちへ歩きだし、人の間を ゆらゆらと縫ってドアを出て行く。 「... おまえなあ」 軽く睨むと、榊は くちびるの両端を ニイと上げ、テーブルにグラスを置いた。 グラスの前には、ガキが置いた封筒が... 「不戦勝というヤツじゃのう、泰河よ」 榊は椅子に座って長い脚を組むと、封筒の中を(あらた)めだした。 こいつ... さっきとは違う意味で、また「おまえなあ」と 呟いたが、その後の言葉を失う。 「10枚か。まあ、悪くなかろう」 隣に座ったオレに 封筒を寄越し、テーブルのグラスを取って 赤い唇に運ぶ。 切れ長の眼を向け 「のう、泰河。もう七日も こうして出張っておるのだし、だいぶ稼いだであろ? 明日あたりからは、ちいと のんびり過ごさぬか?」と、頬づえをついた。 「んー、そうだな... 」 確かに 下手したら本業より稼いでいる。 「こうした場所で飲む洋酒も旨いには旨いのだが なにやら、趣が飽いてのう。 やはり 月など愛でながらの方が... 」 話しながら 榊の眼が前を向く。 視線の先には、男が立っていた。
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