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「まいったよな、しかし」 ため息ついて 食後のコーヒーを飲む。 うん、やっぱりうまい。 カウンターで オレの隣に座っている朋樹が 沙耶ちゃん... この喫茶店の主から サービスのタルトを受け取り その 一つを オレの前に置いた。 ども、と 沙耶ちゃんに手を上げて お礼をし 添えてあったフォークは使わず 親指と人差し指にタルトを挟んで口に運ぶ。 「うまっ!」 思わず口に出ると、沙耶ちゃんが笑った。 オレと朋樹に入る仕事の依頼は、他の同業から回ってくるものや、過去に仕事した客の紹介で また新しい仕事が入ることもあるが 大半は この沙耶ちゃんからの紹介によるものだ。 沙耶ちゃん... 如月(きさらぎ) 沙耶夏(さやか)は おそらく、オレらより 年上。 どう見ても そうは見えないが。 華奢で小さく、明るい髪色の柔らかい毛先は 肩の少し上で揺れている。 二重瞼の大きなの眼、長い睫毛。 ナチュラルな色のグロスが よく似合う。 一言で言えば、可憐な感じだ。 白いレンガの壁の店内には、明るいが 眩しくはない照明の下に、様々な観葉植物の緑がよく映える。 カウンターの奥には、この店に不似合いな 手書きのボードがかけてある。  “占い、御祓い等承ります。どうぞお気軽に”  ... ってやつ。 不似合いなので、すぐに目に止まる。 占いは 沙耶ちゃんがやるが、当たる と すこぶる評判が良く、半年先まで予約が埋まっているらしい。 まあそれは、沙耶ちゃんが 一日に占う客の人数が せいぜい5~6人ってことも理由にあるようだが。
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