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「それが……わからないんだ。振り返ったらもういなかった。なあ、田端。今のが誰なのか、僕は知っているような気がするのに、なぜかなにも思い出せないんだ」
「……へ? お前の知り合いじゃないのか?」
「知り合いのはずなんだが……」
相手の名前も自分との関係も僕は思い出すことができない。そもそも繋がりがあったのかどうかも怪しく思えてきた。今一緒にいたはずなのに、相手の存在が薄らとしてきて、その顔も、声も、仕草も、頭の中から消えていってしまいそうになっている。
わけがわからない、と不思議そうに田端はしきりに首を傾げる。僕は苦笑して、まだ感傷の中にいた。
―また逢うことがあるだろうか。もしそんな機会に巡り合えたら。次は手を離さないで、なにも構わず抱きしめよう。
きっと。始まりを待っている君を捕まえて。これからの僕を捧げよう。
その先の物語を一緒に、僕らは続けるために。
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