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四月下旬、大型連休直前の休日はどこに出向いても人でにぎわっている。こんな日は普段の僕ならわざわざ外に出かけていくことはしない。だから今日は特別だった。大切な仕事の予定が入っていたので、上下にスーツを着用してネクタイを締めて、約束 の時間に間に合うように会場に向かった。
待ち遠しかった。けれど、ものすごく緊張もする。
会場入りをして、通された部屋で打ち合わせをして、時間になると担当者が僕を呼びにきた。
「先生。準備が整ったようですので。こちらにお越しください」
この日は小説の新刊発売日で会場である書店で作家によるサイン会が行われる。僕はその小説の挿絵と表紙を担当していて、サイン会に同席することになっていた。
僕は高校を卒業したのち四年制の大学に進学した。そして四年間、絵を描く作業を続けて卒業を経て、現在の職に就いている。肩書は一応、小説の挿絵や表紙を描くイラストレーターだ。仕事で有利な環境を作るために生活の拠点を移し、地元から遠く離れた場所で暮らしていた。
本格的に描く道を選んだ僕はその技術を大学で専門的に習い、職として成立するくらいには身についていて、そのおかげで生活には困っていない。
忙しい毎日だが、それなりに充実した日々を過ごしていた。
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