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僕が作家先生に頭を下げると、彼も同じようにして「ごめんなさい」と謝った。早々に彼と連れ立って僕は会場を後にする。
どこに行こうか、と僕は彼に訊ねた。僕が現在、仕事場兼住居として使っている部屋があるが、そんなわかりやすい場所ではすぐに見つかる恐れがある。僕を担当している編集者が、仕事を放り出した僕を探しにくるのは間違いない。
そう伝えると、彼が提案をしてくれた。
「じゃあおれの部屋にくるかい? ちょっと、遠いんだけどね」
「どこでも構わない。今、一緒にいられるのなら」
彼と手を繋ぎ合わせた。手のひらの大きさは僕よりもほんの少しだけ小さい。指を絡めてぎゅっと握り合わせて、肩を並べて歩きながら、僕は彼の耳に口を寄せてささやいた。
「そろそろ名前を教えてくれないか。お前の名前を呼びたいんだ」
前を向いたままで彼がぎこちなく頷く。見下ろした耳も俯いた横顔も、ほんのり朱色に染まっていて、僕は彼のことをなんだか可愛い、なんて思ってしまった。
小宇坂要が僕の背中に腕をまわす。
ぎゅう、と僕にしがみついた要が僕の胸に頭を擦り寄せる。
僕は要を抱きとめながら、愛しくて胸の奥が詰まるような、息苦しさを感じていた。
間近で要のことを見下ろして、まじまじとその顔を眺める。
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