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「なんだろう。記憶はないんだけど。……大人になって、色っぽくなったんじゃないか?」
「君こそ。どこの俳優かと思った」
背後で括るほどに伸びっぱなしになっていた僕の髪で、要は遊ぶように指を絡める。次に両手のひらを広げて僕の頬をはさんだ。
「この顔。なんだこの成長ぶり。反則じゃない?」
要はほんのり赤らんだ頬を拗ねたように膨らませる。
老けたくらいで僕自身は十代のころから変わったつもりはないが、要が反応をしてくれるのは嬉しい。にやけていると要が僕の頬をつねった。
「いひゃいだろ、要」
「外でその顔を緩ませるのは公害だよ。……おれだって全然見慣れていないのに」
「見慣れ……なに? 酷いな。その言いよう」
要が僕から手を離す。
「ともかく。いつまでも玄関じゃなくて、中へ入ろう。お茶くらいは出せると思うから」
僕が要といるのは、僕の地元にある、要が以前住んでいたというマンションの一室だった。
要の話では、日本にいる間はここを居住としているのだが、あまり頻繁には使用していなかったらしい。
駅からマンションに着くまでの景色は見慣れたものだった。十年ぶりに訪れたのだが、新しい店が建っていたり、建物がなくなっていたりしても、風景はほとんど変わっていない。
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