出会い

77/116
前へ
/116ページ
次へ
「なんだろう。記憶はないんだけど。……大人になって、色っぽくなったんじゃないか?」 「君こそ。どこの俳優かと思った」  背後で括るほどに伸びっぱなしになっていた僕の髪で、要は遊ぶように指を絡める。次に両手のひらを広げて僕の頬をはさんだ。 「この顔。なんだこの成長ぶり。反則じゃない?」  要はほんのり赤らんだ頬を拗ねたように膨らませる。  老けたくらいで僕自身は十代のころから変わったつもりはないが、要が反応をしてくれるのは嬉しい。にやけていると要が僕の頬をつねった。 「いひゃいだろ、要」 「外でその顔を緩ませるのは公害だよ。……おれだって全然見慣れていないのに」 「見慣れ……なに? 酷いな。その言いよう」  要が僕から手を離す。 「ともかく。いつまでも玄関じゃなくて、中へ入ろう。お茶くらいは出せると思うから」  僕が要といるのは、僕の地元にある、要が以前住んでいたというマンションの一室だった。  要の話では、日本にいる間はここを居住としているのだが、あまり頻繁には使用していなかったらしい。  駅からマンションに着くまでの景色は見慣れたものだった。十年ぶりに訪れたのだが、新しい店が建っていたり、建物がなくなっていたりしても、風景はほとんど変わっていない。     
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

220人が本棚に入れています
本棚に追加